乾 真裕子

月へは帰らない


竹の中から生まれたかぐや姫は美しい女性へと成長し、5人の貴族に求婚される。しかし姫はそれぞれの男性に無理難題を課して結婚を逃れ、最後は月へと帰っていく。乾真裕子はこの有名な『竹取物語』に着想を得て、東京藝術大学の卒業制作として映像インスタレーション《月へは帰らない》(2020)を発表した。
乾は自身の母親にインタビューし、家父長制と男尊女卑の思想が根強い古風な家庭に育ち、同様の価値観を持つ家に18回の見合いの末に嫁いだ母の人生にフォーカスを当てる。振袖を着た母親の姿と、同じ着物を着てドラァグクイーンの化粧を施した乾の姿が交互に映り、かぐや姫の物語と親子の対話が交錯する。関西弁で放たれるブラックユーモアと母娘の笑い声が明るいトーンを与えているものの、嫁や母親という役割を厳格に押しつけられた女性のヒリヒリするような痛みが伝わってくる作品である。